再生医療とは
再生医療とは、生まれつき、あるいは疾病・不慮の事故・加齢に伴い、欠損・損傷・機能低下した組織や臓器を遺伝子、細胞、組織工学により補完する医療です。
広義には、臓器移植も再生医療に含まれますが、一般的には、患者の体外で製造した遺伝子、細胞、組織、臓器を移植する事で、欠損・損傷・機能低下を補完する医療のことを言います。
再生医療の開発で、注目されている領域には、死因の上位を占めるオンコロジー領域(腫瘍溶解性ウイルス、CAR-T細胞等の養子免疫療法等)、一度損傷すると再生しない神経系(特に中枢神経系)領域、生命予後、四肢切断に直結する循環器系領域、人の感覚器の中で最も情報量が多く、障害によりQOLが著しく損なわれる眼科領域などがあります。
> 再生医療コラム:そもそも、再生医療とは?(別ウインドウで開きます)
最先端を走る高橋政代先生
これらの領域の中で、眼科領域では、高橋政代先生が、世界に先駆けて、ヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞(RPE)の移植医療を実施されました。
最初の臨床研究で自家RPEシート、続いて同種(他家)RPE懸濁液を用いた臨床研究を実施し、現在も次の段階を見据えた開発の準備を進められています。
高橋先生は、これまでの過程で再生医療開発に関する様々な困難に直面しつつも、あきらめることなくそれを乗り越えてこられました。
ここでは、通常の医薬品開発にはない、再生医療特有の難しさについて触れてみたいと思います。
再生医療開発特有の難しさ
医薬品開発をよく知る人にとっては当たり前のことですが、有効性及び安全性を評価するために、Randomized Controlled Study(RCT)が行われます。
これは定義された患者集団に対し、一定の用法・用量で被験薬を投与した時の被験者の変化を群間比較し統計学的検定を行うものです。
具体的には、被験者の背景因子を揃え、純粋に被験薬のパフォーマンスを明らかにする手法を指します。
一方で、再生医療が適応される疾患は不可逆的な病変を持つ、患者数の少ない疾患が多いため、RCTを行うことが困難で、症例数も少ない場合が多いという実情があります。
さらに移植手技や併用治療の影響も大きく、試験治療と患者さんの予後の因果関係を慎重かつ丁寧に評価することが求められます。
また治療を行う際の移植手技が非常に繊細な技術であることも開発の困難さを高めています。
確かに有効な治療であると判明しても、それがゴッドハンドと呼ばれるような凄腕医師の神業でしかなしえない治療であったならば、広く患者さんの利益にはなり得ません。
多くの医師が行い得る移植手技に作り上げる必要があります。
リスク・ベネフィット・バランス
再生医療を行う上では、社会の理解と信頼を得ることも重要です。日本では過去に心臓移植技術を拙速に臨床応用した結果、患者さんが死亡するという問題が起こりました。
その結果、日本における心臓移植技術の進歩が停滞してしまいました。
再生医療の領域で、この様な停滞を、起してはならないという強い決意のもと、高橋先生は慎重に開発を進めてこられました。
細胞自身の安全性はもちろん、併用される手技、免疫抑制剤の使用によるリスクなど、ひとつひとつ丁寧に対応することで、一歩ずつ確実に開発の成功に向けて歩んでこられました。
とはいえ、他に治療方法がない進行性の疾患においては、時間の経過は疾患の進行に直結するリスクとなります。
一刻も早く患者さんに新しい治療を届けたい一方で、通常以上の慎重さが求められるというジレンマも、再生医療開発の困難な一面となっています。
工業化の困難さ
細胞はとても繊細です。培養には匠の技が必要なものもあります。これは裏返せば、製造方法を変更することが困難ということでもあります。
研究段階ではラボスケールで製造していたものが、臨床試験ではパイロットスケールになり、製品化ではラージスケールに移行するという医薬品の製造プロセスの拡大と同様の手法が適用できない場合があります。
特に自家細胞製造では、工業化に置いてスケールアップという概念がない場合もあります。
また、培養方法を変更することで、期待した細胞の性質が変わってしまうこともあり、製造方法の変更は大きなリスクを伴います。
薬事法が改正され薬機法になり、再生医療等製品の条件・期限付き承認制度が導入され、一般的には、開発企業の負担が減ったと思われることが多いですが、開発の現場では、むしろ負担は増え、複雑さが増しています。
> 再生医療コラム:再生医療に関する法律 その1(別ウインドウで開きます)
それは、「全部一度にやらないといけないから」です。
非臨床試験の後、臨床試験1試験で申請する場合もあることから、通常であれば、ステップワイズに進められる試験、検討を一度に立ち上げ、いきなり産業化に耐える状態に持っていくことを求められるようになりました。
開発側には、これまで以上にマネジメント力が求められています。
再生医療への期待と現実のギャップ
テレビや新聞で再生医療のニュースが取り上げられると、今にも病気が治るのではないかと、患者さんやご家族の期待は膨らみます。
場合によっては、期待を煽るようなセンセーショナルな伝え方をするメディアもあります。
しかし、再生医療も万能ではなく、治療効果や適用できる患者さんには限界や制限があります。
こうした、正しい情報により社会の理解を得ることが今後ますます求められます。
当グループの取り組み
当社では社員全員が、高橋先生から直接、再生医療開発に関するレクチャーを受講する機会を設定、またより詳しい内容についての理解を深める再生医療スペシャリスト認定取得の推進など、再生医療等製品に関わる者として常に最新の情報の取得に努めています。
業界の最先端を走る高橋先生のご協力のもと、当グループはこれからも再生医療開発に特化したCROとしてお客様の開発をサポートしてまいります。