再生医療コラム

遺伝子治療用製品とは?

前回は、医薬品医療機器等法(薬機法)が定義する再生医療等製品のうち、「細胞加工製品」について説明しました。今回は、もう一つの再生医療等製品である「遺伝子治療用製品」について見ていきます。

薬機法施行令では、遺伝子治療用製品を以下の三つに分類しています。
第一条の二 法第二条第九項の再生医療等製品は、別表第二のとおりとする。

別表第二(第一条の二関係)
遺伝子治療用製品

  • 一. プラスミドベクター製品
  • 二. ウイルスベクター製品
  • 三. 遺伝子発現治療製品(前二号に掲げる物を除く。)

今回は、「遺伝子治療用製品」のお話ですが、それでは、具体的に「遺伝子治療」とは、どのようなものなのでしょうか?

厚生労働省の「遺伝子治療等臨床研究に関する指針」では、遺伝子治療を「疾病の治療や予防を目的として、遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること」と定義しています。つまり、遺伝子治療には「遺伝子を人の体内に投与する」方法と、「遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与する」方法があるという事になります。

このうち、「遺伝子を人の体内に投与する」方法とは、ウイルスベクターなどを用いて、直接ヒトの体内に遺伝子を投与する方法を指しており、これは、体内(in vivo)遺伝子治療と呼ばれます。

一方、「遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与する」方法とは、細胞培養加工施設(工場)で遺伝子を導入した細胞を製造し、その細胞をヒトに投与する方法を指しており、これを、体外(ex vivo)遺伝子治療と呼んでいます。

そして、薬機法上、「遺伝子治療用製品」とは、体内遺伝子治療を行う製品のみを指しており、体外遺伝子治療を行う製品は、「細胞加工製品」に分類されます(遺伝子の導入という作業自体が「加工」に該当しますので、遺伝子導入した細胞=加工細胞となります)。
製品の最終形態が「細胞」であれば、つまり、ヒトに「細胞」を投与するのであれば「細胞加工製品」、製品の最終形態が「遺伝子(ベクター)」であれば、つまり、ヒトに「遺伝子(ベクター)」を投与するのであれば「遺伝子治療用製品」に分類されます。

製品分類とは

例えば、がん治療に用いられるCAR-T細胞は、CAR遺伝子を導入したT細胞ですので、「細胞加工製品」に分類されます。現在、遺伝子治療用製品は、遺伝性疾患やがんなどの領域で盛んに開発されています。
遺伝性疾患とは、遺伝子の変異や染色体の異常により起こる病気です。遺伝子治療は、遺伝性疾患のうち、特に「単一遺伝子疾患」に対いる治療に用いられます。「単一遺伝子疾患」とは、たった一つの遺伝子が働かなくなることで発症する病気です。たった一つの遺伝子の機能不全が原因ですので、正常に機能する遺伝子を戻してあげることで、根本から治療しようというのが、遺伝性疾患に対する遺伝子治療です。

遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」の効果と薬価の高さについて

2019年5月、単一遺伝子疾患である「脊髄性筋萎縮症」に対する遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」がアメリカで承認されました。

脊髄性筋萎縮症はSMN1(survival motor neuron 1)遺伝子の異常により起こる病気です。
SMN1遺伝子の機能喪失により、運動ニューロンの細胞死が起こり、全身の筋力低下や筋萎縮が進行します。最終的には生命活動に必要な筋肉の維持すらできなくなり、呼吸困難などにより死に至る重篤な病気です。
そこで、脊髄性筋萎縮症の患者さんの運動ニューロンにウイルスベクターを用いて正常なSMN1遺伝子を導入することで、運動ニューロンの細胞死を防ぎ、病気を根治させようというのが、ゾルゲンスマのコンセプトです。ゾルゲンスマの治療は、ウイルスベクターをたった一回、静脈投与するだけで終わります。
ゾルゲンスマは、人工呼吸器なしでは2歳以上生きられないと言われている脊髄性筋萎縮症に対し、生存期間の延長や運動機能の維持などの素晴らしい臨床効果を発揮し、中には立ったり歩いたりできるようになる患者さんもいました(N Engl J Med 2017; 377: 1713-1722)。

ゾルゲンスマは、その治療効果の高さと同時に薬価の高さ(212万5000ドル(約2億3000万円))でも話題を呼びました。しかし、このような重篤な遺伝性疾患のお子さんにかかる10年間の医療費(人工呼吸器などの費用)は440万~570万ドルというデータもあり、ゾルゲンスマ一回の投与で脊髄性筋萎縮症が根治するのであれば、費用対効果は高いと言えるのではないでしょうか。

がん領域の「遺伝子治療用製品」には、腫瘍溶解性ウイルスがあります。腫瘍溶解性ウイルスは、正常細胞では増殖せず、がん細胞だけで増殖するように設計されたウイルスです。がん細胞に感染した腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞内で増殖し、最終的にがん細胞を壊して飛び出します。飛び出した腫瘍溶解性ウイルスは、「付近のがん細胞に感染→増殖→細胞を壊して飛び出すという」サイクルを繰り返す事により、腫瘍を溶解(縮小)させます。がん細胞が破壊される時に、がん抗原が放出されることで、リンパ球が活性化する可能性が示されており、現在では、免疫チェックポイント阻害剤(PD-1、PD-L1抗体薬)との併用試験が多数実施されています。

この様に、再生医療等製品は、これまで対症療法しかなかった重篤な疾患を根治する可能性を秘めています。

※次回コラムからは再生医療に関する法令の解説を掲載の予定です。

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