日本の医薬品医療機器等法(薬機法)では、「再生医療等製品」を次の様に定義しています。
第二条
9 この法律で「再生医療等製品」とは、次に掲げる物(医薬部外品及び化粧品を除く。)で
あって、政令で定めるものをいう。
- 一. 次に掲げる医療又は獣医療に使用されることが目的とされている物のうち、人又は動物の細胞に培養その他の加工を施したもの
イ 人又は動物の身体の構造又は機能の再建、修復又は形成
ロ 人又は動物の疾病の治療又は予防 - 二. 人又は動物の疾病の治療に使用されることが目的とされている物のうち、人又は動物の細胞に導入され、これらの体内で発現する遺伝子を含有させたもの
上記の定義で、一は「細胞加工製品」、二は「遺伝子治療用製品」を指しています。
さらに、一の「細胞加工製品」は、薬機法施行令により以下の四つに分類されています。
第一条の二 法第二条第九項の再生医療等製品は、別表第二のとおりとする。
別表第二(第一条の二関係)
- 一. ヒト体細胞加工製品(次号及び第四号に掲げる物を除く。)
- 二. ヒト体性幹細胞加工製品(第四号に掲げる物を除く。)
- 三. ヒト胚性幹細胞加工製品
- 四. ヒト人工多能性幹細胞加工製品
疾患の治療に使われる細胞は、その性質により、主に三つに分けることができます。
一つ目は、我々の体を形作っている全ての細胞(神経細胞や、筋肉細胞、血液細胞など、およそ270種類の細胞が存在すると言われています)になることができる(=分化する能力を持っている)、人工的に作られた「多能性幹細胞」で、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)がこれに当たります。
二つ目は、我々の体内に存在し、関連する数種類の細胞に分化する能力を持っている「体性幹細胞」で、造血幹細胞(白血球、赤血球、血小板などの血液細胞に分化できる)や間葉系幹細胞(骨芽細胞や脂肪細胞、筋芽細胞などに分化できる)などが知られています。
三つ目は、我々の体を形作っている「体細胞」で、既にそれぞれ特有の機能を持っており(膵島β細胞のインスリン分泌、赤血球の酸素運搬など)、他の細胞に分化することはありません。薬機法では、細胞加工製品をこの性質ごとに四つに分類しています。
多能性幹細胞であるES細胞やiPS細胞は、人工的に作られた細胞であり、我々の体内には存在しません。それでは、これらの細胞は、どのように作られるのでしょうか?
多能性幹細胞と同様の能力、つまり、全ての(約270種類の)細胞に分化する能力を持っている細胞と言われて、受精卵を思い付く人も多いのではないかと思います。受精卵は、たった一つの細胞から我々の体を形作っている全ての細胞を作り出す能力を持っています。この受精卵から細胞を取り出して、培養させたものがES細胞(胚(=受精卵)性幹細胞)です。
ES細胞は、受精卵が持っている、全ての細胞に分化する能力を受け継いだ細胞なのです。しかし、ES細胞を治療に利用しようとすると、二つの問題点が浮かび上がってきます。
一つ目は、そのまま育てば一人の人間へと成長する「受精卵」を壊して細胞を取り出すという倫理的な問題点です。
もう一つは、ES細胞は他人の細胞(患者さん自身から作ることはできません)なので、患者さんに移植後、拒絶反応が起こってしまうという技術的な問題点です。
実際に、これらの問題点から、ES細胞の臨床応用はなかなか進まないという状況が続いていました。
この状況を一変させたのが、iPS細胞の登場です。山中先生は、既に分化してしまった細胞でも、4つの遺伝子を導入することにより、受精卵と同じ状態、つまり全ての細胞に分化できる初期の状態に戻すことができるという事を証明しました。
そして、この初期化現象を利用して人工的に作った多能性幹細胞をiPS細胞(induced Pluripotent Stem Cells:人工多能性幹細胞)と名付けました。iPS細胞は、患者さん自身の細胞(皮膚細胞や血液細胞)から作製することができます。つまり、受精卵を壊す必要も、拒絶反応が起こる心配もありませんので、ES細胞が持っていた二つの問題点を一気に解決したという事になります。
iPS細胞の登場以来、iPS細胞から分化させた細胞を様々な疾患の治療に利用しようという試みが行われているのは、皆さんご承知の通りです。
疾患の治療に使われる細胞は、多能性幹細胞ばかりではありません。体内に存在する幹細胞である「体性幹細胞」や、既に分化してしまった「体細胞」も利用されます。体性幹細胞の中でよく使われる細胞としては、間葉系幹細胞が挙げられます。日本で承認されている再生医療等製品のうち、「テムセルHS注」と「ステミラック注」は、どちらもこの間葉系幹細胞を用いた製品です。この他にも、「ハートシート」は、骨格筋芽細胞という体性幹細胞を利用しています。一方、既に分化してしまった体細胞を用いた製品としては、表皮細胞を利用した「ジェイス」、軟骨細胞を利用した「ジャック」、リンパ球であるT細胞を利用した「キムリア」があります。
※次回コラムは遺伝子治療用製品について