再生医療とは|歴史と治療技術としての評価

再生医療とは、怪我や病気で損なわれた細胞や組織、器官を正常な状態に再生させる治療法です。

この記事では、再生医療の基本概念から歴史、そして現在の治療技術としての評価までを詳しく解説します。

再生医療とは

再生医療とは、怪我や病気で損なわれた、または生まれつき機能が不全な細胞、組織、器官を正常な状態に復元させる治療法です。この革新的な医療技術は、これまで治療することのできなかった重篤な疾患等に対して、根治が可能になる可能性を秘めています。

再生医療の「再生」という言葉は、失われた生体の一部が再び作り出されることを意味します。

ES細胞やiPS細胞、遺伝子改変技術の登場により、人間が「再生」できる未来が少しづつ現実味を帯びており、アルツハイマー病などの神経変性疾患、事故などによる脊髄損傷、そして心筋梗塞などの心疾患、緑内障などの眼科疾患といった多くの領域の疾患において根治が可能になると考えられており、盛んな研究がおこなわれています。

 

再生医療の歴史と発展

初期の再生医療

再生医療の原形となる行為そのものは、今から約500年前の15世紀末より行われていた輸血1です。
当時は血液型の概念もない時代でしたが、治療の一つとして輸血が行われていました。

しかしながら、末梢血の寿命を考えると効果が長続きしないという課題があり、この問題を解決するため研究を重ね、骨髄移植が確立され、現在では一般医療になっています。

細胞治療の進化

再生医療の中でも、細胞を用いた細胞治療は、血液細胞を用いたものからスタートしました。
1970年代には、再生不良性貧血や白血病などの難治性骨髄性疾患に対して、造血幹細胞を患者に輸注する治療法が確立
されました。この技術は、現在の骨髄バンクや体性幹細胞を用いた再生医療に繋がっています。また、これらと同時期に、シート状の組織を構築して人体に適用する技術も開発されました。

ティッシュエンジニアリングの登場

1993年頃には、ティッシュエンジニアリングという概念が提唱されました。ティッシュエンジニアリングとは、工学と生命科学の融合により、人工材料と細胞・生理活性物質を組み合わせる技術です2。(これは工学と生命科学を融合し、人工材料と細胞・生理活性物質を組み合わせる技術です。)この技術により、生体機能を代替する製品の作製が可能となり、現在の細胞シート技術にも繋がっています。

ES細胞とiPS細胞の時代

1990年代後半には体細胞と比較して、分化能力の高い細胞を用いる研究が進み、1998年にヒトES細胞を樹立することで、ES細胞を用いた研究が盛んになりました。

しかし、ES細胞は受精卵を破壊し作製するという理由から、倫理的な問題が指摘されたため、ヒトの受精卵を用いないiPS細胞の活用が検討されるようになりました3

現在は、ES細胞、体性幹細胞、iPS細胞など、様々な細胞を用いた研究が行われています。

 

再生医療等製品と法規制

2014年に医薬品などを規制する法律の薬事法が改正され「医薬品医療機器等法(薬機法)」へと変わりました。この改正により、「再生医療等製品」という新しい分類が設けられました。

しかし、薬機法における「再生医療等製品」は、必ずしも再生医療に使用される製品を指すわけではありません。

実際には、「再生医療等製品」は遺伝子や細胞を用いて疾患を治療・予防する製品を指し、日本では「遺伝子・細胞治療製品」と同義です。例えば、がん治療に用いられる腫瘍溶解性ウイルスやCAR-T細胞も「再生医療等製品」に分類されます。

治療技術としての再生医療の評価

 

医薬品開発との違い・評価方法の特殊性

再生医療の開発は、医薬品開発とは異なる特徴を持っています。医薬品開発がモノとしての製品開発が主要な要素を占めるのに対し、再生医療の開発では治療方法の開発が主となる場合があります

再生医療の評価では、製品のパワーだけでなく、手技の重要性も考慮する必要があります。例えば移植を伴う再生医療では、手術手技の善し悪しが製品の性能以上に重要となる場合もあります。また、再生医療の対象疾患には希少疾病が多いと考えられており、統計的検定による有効性の証明が困難な場合があります。そのため、少数の患者データの一つ一つをを詳細に検討し、治療とアウトカムの因果関係を慎重に見極める必要があります。

 

まとめ

再生医療は、損傷した細胞や組織を復元する革新的な治療法であり、医療の新たな可能性を切り開いています。

歴史的には、輸血や骨髄移植から始まりES細胞やiPS細胞の登場により大きな進展を遂げました。

法規制の面でも「再生医療等製品」という分類が新たに設けられ、遺伝子や細胞を用いた研究が進められています。

今後、再生医療の評価方法や手技の重要性を考慮しつつ、多くの患者に新たな治療の選択肢を提供することが期待されます

 

【参考文献】
1. 岡野 栄之 再生医療の過去,現在,未来Inflammation and Regeneration Vol.24 No.2 MARCH 2004
2. ティッシュエンジニアリング 組織工学の基礎と応用(名古屋大学出版会)
3. 林 直樹 再生医療市場-市場の現状と今後の課題- 株式会社三菱総合研究所