レメディグループが推進する医療のデジタルイノベーションの一つとして、自社開発の臨床データ管理システム「MUGEN Platform」をリリースしました。
目指したのは、より早く、より安全なシステム化。最大の強みは純国産による開発と導入までのスピード感。
CROのプロフェッショナル集団が作った臨床データ管理システムの、開発背景や道のりや強みについて、開発責任者のIさんにお話を伺いました。
臨床データ管理システム「MUGEN Platform」について
医薬品の開発スピードを加速させたい
インタビュアー:Iさん、本日はよろしくお願いします。今回、レメディグループが自社開発した臨床データ管理システム「MUGEN Platform」の一つである、EDCシステムについて教えてください。そもそもEDCとはどういったものなのかを教えていただけますか。
Iさん:はい。EDCとはElectronic Data Captureの略称で、電子的に臨床データを収集できるシステムのことです。従来、医療機関の医師やCRCが紙に記録してある治験に必要なデータを、治験のデータを収集する専用のシステムに手入力をするということが主流でした。しかし、EDCシステムが開発されたことにより、医療機関の医師やCRCが直接治験データを収集するシステムにデータを入力できるようになり、業務の効率化や紙から電子のデータに転記する際の入力ミスも軽減できるようになりました。
インタビュアー:このEDCシステムを含む「MUGEN Platform」をレメディグループは自社開発したんですね。2018年に開発がスタートしてから実に5年越しのリリースとなりましたが、他社の治験システムを使用していたレメディグループがなぜこのプラットフォームを自社開発をするに至ったのでしょうか?背景を教えてください。
Iさん:端的に言えば、より使いやすく、費用面や治験開始時に導入しやすいシステムを開発して、医薬品開発のスピードを加速させていきたかったからです。
私たちもインテリム社としてCRO事業を行う中で、他社のシステムを使用することがあるのですが、機能が充実していて便利である一方で、治験によっては機能が十分すぎるというケースもありました。
機能の装備が充実している分ライセンス料は高額になりますし、治験ごとのカスタマイズにもそれなりの時間がかかります。既存のシステムはたいていITベンダー主体で開発されたものですが、私たちのCRO経験を治験システムの開発に活かすことができれば、より医薬品開発の現場が求める使いやすさにこだわったり、機能の取捨選択が可能なもう少しコンパクトなシステムを開発できるのではないかと考えました。
インタビュアー:治験ごとの機能のカスタマイズにも結構時間がかかるものなんですね。
Iさん:一般的には、治験ごとにシステムを稼働させるまでに3〜4ヶ月ほどかかります。MUGEN Platformは、ベーシックに備わる機能は本当に必要なものに削ぎ落とし、お客様ごとに求める機能を追加できるシステムになっています。そのため、短いときは1ヶ月ぐらいでシステムの稼働を実現できています。
システムが稼働しなければ治験を開始できませんので、医薬品開発のスピード加速においてシステムの稼働までにかかる時間を短縮することは本当に大事なポイントだと思います。
インタビュアー:その他にこだわった点はありますか?
Iさん:純国産のシステムであることも特徴です。既存のシステムは、ほとんどが外資のITベンダーが開発したものです。なのでユーザインターフェイス(UI)なども、日本人にとっては少し馴染みのない部分があります。ユーザーには医師やCRO、ePRO(治験患者が入力する電子日誌)の場合はさらに患者さんも治験システムを使います。
それぞれのユーザーを想定した使いやすさにフォーカスした点もMUGEN Platformの開発でこだわった点です。
CROとしての経験があるからこその、こだわりと大変さ
インタビュアー:皆さんシステムの開発経験はなかったですよね?大変だったんじゃないですか?
Iさん:大変でした(笑)。最初に社長から治験システムを自社で開発しようと言われたときは、完全に及び腰でしたね。自分以外のメンバーも、皆データマネージャーとしての経験が豊富で、他社の治験システムを使ってきた側です。なので、その世界のことをよく知っているからこそ、これを自分たちで開発するなんて本当にできる?という感じでした。
インタビュアー:具体的にはどういった体制で開発を進めていきましたか?
Iさん:開発業務自体は開発会社に入っていただきました。私たちがこういったシステムにしたい・この機能を装備させたい、という企画を考えて、開発会社と連携しながら進めていきました。
レメディグループは医薬品開発のプロで、開発会社はシステム開発のプロです。お互いの専門用語や考えていることを理解しあうことが大変でしたね。
インタビュアー:具体的にはどのような大変さがありましたか?
Iさん:こちらが考えていることを実現しようと思うと、実は相当な開発工数がかかってしまう、など…。開発会社からすると、私たちが立ててくる企画が非常識に感じたこともあったかと思いますが、日頃システムを利用する立場として、装備したほうが良いという機能に自信はありましたので、粘り強くコミュニケーションを続けました。特に最初の1〜2年は大変でしたが、お互いそれぞれの分野を勉強して、だんだんとコミュニケーションが円滑になっていきました。
インタビュアー:「MUGEN Platform」は臨床データ管理のプラットフォームという位置付けで、EDCを中心に据えながら、周辺の関連するシステムが付随しています。それらも同時並行で開発を進めていったのでしょうか?
Iさん:そうですね。例えば、治験患者が自身の状態を報告する日誌である「ePRO」や、治験患者に試験の内容を説明し、電子署名などにより参加の同意を得るための「eConsent」などです。
医薬品開発のプロセスにおいてEDCだけでは不十分で、ePROやeConsentといった周辺システムなどでもデータの連携が取れることで、さらなる効率化につながっていきます。EDCはMUGEN Platformのものを使用しつつ周辺システムは他社のものを使用、となるとシステム間の連携がうまくいかなかったり、非効率になる部分が出てきますので、MUGEN PlatformとしてEDCをはじめその周辺システムをきちんと提供することが重要です。
MUGEN Platformから始まる次世代のEDC
インタビュアー:昨年のリリース後、デモや営業を実施している最中だと思いますが、手応えはいかがですか?
Iさん:医療機関様や医薬品メーカー様から好反応をいただけています。また、いただいたフィードバックをもとに、リリース後も日々システムの改良を続けています。今の一番の目標は、MUGEN Platformを使って治験を進めた医薬品の承認実績をつくることです。
お客様にデモなどで使いやすいと感じていただけても、承認実績がないシステムの導入に不安を感じることは当然のことです。承認する機関であるPMDAとしても、MUGEN Platformを使った治験に対する承認は初めてのこととなるので、実績のあるシステムと比べると審査のハードルが高くなるかもしれませんが、承認の実績がつくれるよう着実に進めていきたいと思います。
インタビュアー:特に印象に残るお客様からの反応や進んでいる案件などはありますか?
Iさん:神戸アイセンター病院様との取り組みは、私たちとしても非常に意義を感じているものです。電子カルテからEDCに、臨床試験データのみを自動移行するEDC開発に取り組み、実現しました。
従来、治験に参加する患者様については、医療機関が病状を電子カルテに入力しつつ、EDCにも別途入力する必要がありました。その結果、SDVという治験データと原資料(電子カルテ)に齟齬がないかをチェックするモニタリングの作業も発生します。
これらは治験の効率化において大きな課題で、私たちとしてもEDCの開発をスタートさせた初期段階から、解決していきたいと考えていたテーマでした。
電子カルテからEDCに臨床試験データを自動移行する次世代EDC開発に成功~神戸市立神戸アイセンター病院との取り組み~
インタビュアー:なぜ電子カルテとEDCでデータ連携することは難しいのでしょうか?
Iさん:電子カルテのシステムごとに書式が異なりますし、医療機関において電子カルテは患者様の重要な個人情報となるため、医療機関のネットワーク内で厳重に管理されています。そのため医療機関外にあるEDCに自動的にデータを移行することはセキュリティ上困難でした。今回、自動で移行できる仕組みを自社開発できたことは、臨床研究・試験のスピードアップ、データ品質向上やモニタリング業務の効率化を実現する、画期的な取り組みです。
神戸アイセンター病院様からもプレスリリースの中で「これが広がって、病院で働く医師たちが少しでも患者に集中でき、また開発の効率化で無駄を省いて治療が速やかに作れる時代が来ることを祈っています」という嬉しいコメントをいただきましたが、この次世代のEDCのかたちが当たり前のものになるように、今後一層力を入れていきたい取り組みです。
多くの人に薬を届けるためにできること
インタビュアー:やはり当面の目標は、MUGEN Platformを使って進めた治験で承認を得ることでしょうか?
Iさん:そうですね、それが今後MUGEN Platformを広めていく上で実績として必要なことなので、実現していきたいです。また「MUGEN」という名称に込められた思いとも通じますが、日本だけでなく海外でも信頼されるシステムとして展開していきたいと考えています。
「MUGEN」という単語は海外でも意味が知られている日本語です。プロジェクトの開始当初から、ゆくゆくは海外で展開していきたいという思いがありましたので、日本らしさが伝わるような名称にしました。
レメディグループの前進であるインテリム社のロゴマークも、無限(インフィニティ)を表現しているので、その点との親和性も決め手となりました。
インタビュアー:最後に、Iさんのこの仕事に感じているやりがいや思いを聞かせてください。
Iさん:MUGEN Platform開発の背景とも通じますが、臨床試験のスピードを出来る限り短縮し、医薬品開発のスピードアップに貢献したいという思いがあります。
開発にかかる時間や関わる人の工数・莫大な費用は、薬を販売するときの金額として積み上がっていきます。多くの人に薬を届けるために、我々ができることの一つとして、開発のスピードアップにこだわっていきたいと思います。
インタビュアー:Iさん、ありがとうございました!