MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)は 高度な医学・科学的な専門知識を有し、営業活動は行わず、製薬企業と臨床現場・KOL(キーオピニオンリーダー)の中立的な立場から情報提供を行う職業です。
本記事ではMSLの具体的な仕事内容や求められるスキル・知識、考えられるキャリアパスについて解説します。
目次
MSLはどのような職種なのか
製薬・CRO業界にはさまざまな職種がありますが、その中の一つであるMSLとはどのような職種なのでしょうか。
MSLの概要
MSLは「Medical Science Liaison」の頭文字をとった略称で、医学的・科学的な根拠に基づき、最新の医薬品情報を医師や研究者などの医療従事者に提供する職種です。
もともとリエゾン(Liaison)はフランス語の「橋渡し」の意味で、ビジネスの世界では異なる業界・異なる部署をつなぐ仲介役として使われる用語です。
MSLは、KOL(Key Opinion Leader)と呼ばれる医師などの医療分野における専門家への情報提供を通じ、信頼関係を構築することで最適な医療や治療法の普及に貢献します。
MSL制度認証事業
MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)が今後の製薬企業活動において重要な役割を担うことが期待されることから、一般財団法人日本製薬医学会は「MSL制度認証事業」を開始しています。
一般財団法人日本製薬医学会は、高度な医学・科学性をもとに医療の発展に資することを確実にするため、企業のMSL認定制度に対する第三者認証機関として活動を行う機関です。
MSLの認証については、以下の3つの観点が重視されます。
1.販促活動からの独立性(コンプライアンス体制)
2.医学・科学性
3.教育体制
MSL認証の評価基準については、「メディカルサイエンスリエゾンの認定制度に関する認証評価項目」として細かく定められました。
出典:一般財団法人日本製薬医学会 メディカルサイエンスリエゾンの認定制度に関する認証評価項目 評価の視点/評価項目/リソース
MSLの具体的な仕事内容
ここでは、MSLの具体的な仕事内容を見ていきましょう。
MSLの仕事は多岐にわたりますが、「最新の医学情報の収集と提供」「KOLへの訪問とサポート」「自社のサポート」の3点にまとめることができます。
なお、MSLの仕事は業務範囲が広くなっているため、社内でチームを編成しそれぞれ分担して行うことが一般的です。
最新の医学情報の収集と提供
自身が担当する疾患領域に関する最新情報や有効性・安全性情報などを、学会への参加や研究論文を通じて収集・精査します。
また、学会や自社が主催する講演会・セミナー・ブース出展などのイベントへも関与することもあり、MSLが企画・運営に携わることがあります。
KOLへの訪問とサポート
MSLはKOLや研究者と対面・またはオンライン面会を通じて、医薬品や治験に関する最新情報を提供し、意見交換を行います。
MSLは、製品の販売活動を担当する部門とは一線を画した立場でKOLと会い、医学的・科学的な情報交換を通じて信頼関係を構築するのです。
KOLへの協力を通じて、最新の医薬品情報が医療従事者にもたらされ、最適な医療や治療法が普及するとともに、製品と企業認知度が向上することが期待されます。
自社のサポート
KOLとの意見交換や学会などでの交流を通じて得た知見から実際の臨床現場では足りていないアンメットメディカルニーズを導き出し、今後の開発戦略に役立つようなフィードバックを自社に行うこともMSLの役割の一つです。
また、MSLは医薬品の価値最大化を目的とするメディカル戦略を策定・実行を行うこともあります。
メディカル戦略は、製薬企業の営業部門が策定するマーケティング戦略とは異なるアプローチで、医薬品に関するエビデンスの構築、疾患の啓発活動、新たな医療ニーズの発掘などを行うことによって、製薬企業のプレゼンスを向上させます。
MSLとMRの違い
MSLと混同されやすい職種にMR(Medical Representative)がありますが、業務内容や果たすべき役割は異なる職種です。
それぞれの違いについて解説します。
MRの特徴
MRは、日本語では「医薬情報担当者」と訳されます。
MRは主に製薬企業の営業部門に所属し、病院・薬局・医薬品販売卸売会社などを訪問して、自社の医薬品の情報提供を行います。
MRは、医薬品の情報提供を通じた自社製品の販売促進が主な業務内容であるため製薬企業の営業担当と言うことができます。
自社製品の販売促進に加え、次なる製品開発に役立つような自社製品の有効性や安全性に関するフィードバックを医療機関から収集することも、MRの役割の一つです。
MSLの特徴
MRが製薬企業の営業担当の立ち位置であるのに対し、MSLは、製品の販売活動を担当する部門とは一線を画した立場でKOLと会い、医学的・科学的な情報交換を通じて信頼関係を構築することで、自社製品や自社の価値を高めるという役割を担います。
MRと医療従事者の関係が「売り手」と「買い手」になっていたのに対し、MSLと医療従事者の関係は中立・対等な科学者同士という点がそれぞれの大きな違いです。
MSLには自社の製品のプロモーション活動は許されておらず、提供する情報も営業部門が用いるものとは区別されています。
MSLに求められるスキル
専門的知識
MSLは医療従事者と対等な立場で医学的・科学的根拠に基づいて意見交換を行うため、高い専門的知識が求められます。
学歴としては理系大学院卒、博士課程を終了していることが望ましいでしょう。
MSLの職種柄、日常的に論文を読むことが必要になるため、論理的思考能力も必要となり、膨大な情報の中から有益な情報をピックアップする能力も求められます。
コミュニケーション能力
製薬企業を代表して自らがKOLと接するため、基本的なビジネスマナーは前提として、高度な思考能力を駆使したコミュニケーション能力が求められるといえるでしょう。
また、学会報告会や自社主催のイベントでの講師を務めることもあり、プレゼンテーション能力が必要とされる場合もあります。
英語力
日々の情報収集で読む学術論文の多くは、英語で書かれていることが多いため、英語のスキルはMSLにとって不可欠になるでしょう。
英語での日常会話や読解が問題なくできる方であっても、MSLで求められる英語力は医学的な専門用語・表現が多く含まれるため、自らの英語力をさらに磨く必要があるでしょう。
担当するプロジェクトによっては、英語での会議が発生することもあるため、MSLにとっては英語力は必須といえるでしょう。
MSLへの転職の難易度
MRやCRAなど他の職種からMSLへの転職をすることの難易度について解説します。
製薬企業
医薬品の多様化や製薬企業のコンプライアンス意識が強まっていることから、MSLへのニーズも高まっていると言えます。
しかしながら先述したように、MSLが求められるスキル・専門的知識は非常に高いため、転職の難易度も非常に高いものと考えるべきでしょう。
MRからの転職に関しては、MRとMSLの立ち位置や求められる知識や資質が異なることから採用が難しいとされています。
すでに製薬企業に勤めているMRであれば、未経験で他社のMSL職への転職に挑戦するよりは、社内で部署移動を希望するという選択肢のほうが現実的でしょう。
CRO(開発業務受託機関)やCSO(医薬品販売業務受託機関)に勤めていた人は、製薬会社のCRAに一度転職し、臨床試験に関する知見を習得してからMSLを希望するという方法が選択肢となります。
CRO(医薬品開発業務受託機関)やCSO(医薬品販売業務受託機関)
MSLは製薬会社だけでなく、CROやCSOでも採用を募集していることがあります。
CROやCSOは製薬企業から委託を受けて業務を行う企業であるため、業務内容は製薬企業のMSLが担う内容と基本的には同一と言えるでしょう。
求められるスキル・知識も基本的には同等ですので、未経験からMSLを目指す方はCRO・CSOの求人についても調べてみると良いでしょう。
MSLのキャリアパス・将来性
近年医薬品の多様化が進んでいることや製薬企業のコンプライアンス意識が強まっていることから、MSLへのニーズも高まっていると言えます。
求められるスキル・知識は非常に高いのですが、医療業界への貢献につながるやりがいを感じる仕事でもあります。
最新の医学情報の収集、メディカル戦略の立案、論文の作成、学会などでのプレゼンテーション、KOLとのコミュニケーションなど、MSLの業務は多岐にわたりますが、それぞれのエキスパートを目指し、さらに経験を積むことで全体を統括するマネージャーになるというキャリアも考えられます。
まとめ
MSLは高度な専門性を求められる職種ではありますが、やりがいも高くニーズがある職種です。
未経験からの転職難易度はかなり高いと言えるため、医薬品開発に携わるキャリアの最終ゴールとしてMSLを設定するのも一つかもしれません。