メディカルライティングとは、医学や薬学など専門的な知識をもとに文書を作成することです。
医療分野に特化した専門的なライターである「メディカルライター」はどのような仕事に取り組むのでしょうか。本記事では、必要な知識・スキルをはじめ、将来性について解説します。
目次
メディカルライターとは
メディカルライターとは、医学や薬学に関する文書などを執筆する職業で、医学・薬学に関連する執筆業務や、医薬品・医療機器の開発から承認申請までに必要になる各種資料の作成を行います。
主な作成文書は治験開始前に必要となる治験実施計画書や、治験終了後に必要な総括報告書です。
メディカルライターは所属する企業によって、臨床試験に関連するものだけでなく、学会で使用する資料や患者様向けの資料、Webサイトに掲載する文章を作成する場合もあります。
どの文書も法律や規制、ガイドラインなどを遵守し事実に基づいて科学的に執筆しなければならないため、メディカルライターは医療分野の知識や文章力が必要な仕事になります。
メディカルライターと混同されやすい職業として「医療ライター」がありますが、医療ライターは医薬品や医療機器の紹介記事や医療機関のコラム記事、一般向けの情報が掲載されたWebサイトを執筆するため、メディカルライターが扱う文書とは大きく異なります。
また、メディカルライターは医療分野に関する知識をもとに、医療分野の専門家や患者様に向けて文書を作成することも医療ライターとの違いのひとつです。
このように、執筆する文書や必要な知識、自分が作成した文書を届ける先に違いがあるため、メディカルライター・医療ライターには違いがあることがわかります。
メディカルライターの仕事内容
メディカルライターの仕事は、大きく2つに分けることが出来ます。
- 医薬品・医療機器の開発に関する業務
- 医療従事者・患者様向けの資料を作成する業務
具体的にどのような仕事があるのか見ていきます。
医薬品・医療機器の開発に関する業務
医薬品・医療機器の開発に関する業務を担当する場合は、主に製薬企業・CRO(医薬品開発業務受託機関)に所属し、医薬品や医療機器の開発から承認までに必要な各種文書を作成します。
具体的には、以下のような文書があります。
- 治験実施計画書
- 説明文書・同意文書
- 総括報告書
- 製造販売業許可申請書類
- 照会事項回答書
など
これら以外にも、医薬品の製造販売後に行われる再審査に必要な文書や、医学・薬学論文の作成をすることもあります。
メディカルライターが執筆する各種資料は、公的機関や専門家に向けて提出する文書であるため、「科学的であること」「正確なデータであること」が重視されます。
医療従事者・患者様向けの資料を作成する業務
医療従事者・患者様向けの資料の作成業務を担当する場合は、主に医療系の制作会社等に所属し、以下のような各種資料の作成を担当します。
- 医療従事者向けの教材
- 製薬企業などの営業担当者向けの教材・マーケティング資料
- 患者様向けの資料
など
それぞれ資料の作成という面では同じかもしれませんが、作成にあたって求められる知識や経験、作成した資料を届ける先が違うことから、全く違う業務内容と言って良いでしょう。
どちらの業務でも共通することは、正しい情報を正確に伝えることはもちろん、誤解のない表現でわかりやすく伝えることです。
メディカルライターの勤務先
メディカルライターは所属する企業によって、それぞれ業務内容が大きく異なります。
- 製薬企業やCRO
- 医療系の制作会社医薬系広告代理店
- フリーランス
メディカルライターが所属する主な企業を1つずつ解説します。
製薬企業やCRO
製薬企業やCROで働く場合は、治験の目的や方法など臨床試験の概要が記載される治験実施計画書(プロトコル)や、臨床試験の結果をまとめた総括報告書など、医薬品の開発から承認に関する各種資料の作成を行います。
上記以外の資料だと、治験に関する説明文書や臨床試験参加に関する同意取得時に使用する文書作成や、医薬品の承認申請のために作成するCTDの作成、医学・薬学に関する論文執筆業務も行うことがあります。
メディカルライターが担当する業務は企業によって異なるため、製薬企業・CROのメディカルライティング職を希望する場合は、自身が希望する業務内容と企業の業務内容がマッチするかどうか、事前に調べておくことが大切です。
医療系の制作会社
医療系の制作会社では、医療従事者や患者様に向けた資料やコンテンツを作成することが多いです。
資料やコンテンツの作成にあたっては、専門的な言葉を使って執筆するのではなく、医師や看護師、患者様にわかりやすく医薬品や医療機器を説明することが求められます。
また、学会で使用するパンフレットやポスターも作成することもあるでしょう。
医療系の制作会社でも企業によって業務内容や担当する業務が異なることがあるため、「どのような資料文書・制作物を担当したいか」を考えてから企業を選ぶことが大切です。
フリーランス
メディカルライターは、上記で紹介した企業をはじめ、翻訳事業を行う企業などとの業務委託にて働くことも出来ます。
しかし、メディカルライターは専門的な知識や経験が必要とされる傾向にあるため、はじめてメディカルライターとして働く場合は企業に勤めたほうが経験や実績を積みやすいでしょう。
北米やヨーロッパ、アジア、オセアニアなどでも必要とされているメディカルライティングは、英語が共通語とされているため、英語で書かれた文書を正確に読み取り執筆する力があれば、さらに業務の幅は広がっていくでしょう。
メディカルライターの魅力
医学や薬学など専門的な知識をもとに文書を作成することを仕事とするメディカルライターには、以下のような魅力があります。
- 医療分野に関わることができる
- 最新の医療情報の知識を得ることができる
- 知識・経験を活かすことができる
- 人々の命や健康を支える一部になれる
詳しく見ていきます。
医療分野に関わることができる
1つ目の魅力は、医療分野に関わることができる点です。
たとえば、製薬企業・CROに所属するメディカルライターは、自社もしくはクライアントからの依頼を受けて様々な文書の作成を行います。そのため”1つの領域にまつわる制作のみを行う”といったことはあまりなく、”オンコロジー領域に関する申請書類”、”再生医療領域に関する申請書類”のように必要とされる領域は多岐に渡ることが特徴です。
最新の医療情報の知識を得ることができる
2つ目の魅力は、常に最新の情報を得ようとする姿勢が身につくことです。
医療業界では常に様々な研究が行われ、新たな治療方法や医薬品が開発されるだけでなく、それに併せて関係法令なども改正が行われます。そのため医療にまつわる仕事に従事する方は最新の情報をキャッチアップして知識を更新し続ける必要があり、これはメディカルライターという職業にも当てはまります。
新しい情報や知識を得て自身のスキルを磨き続けたい方には魅力的なポイントではないでしょうか。
知識・経験を活かすことができる
3つ目の魅力は、医学や薬学の知識・経験を活かせることです。
医療機関や、医薬品開発に関連する業務経験がある方は、経験や知見を活かしてメディカルライターとして働くことが出来る可能性があります。
学会の発表資料や論文執筆の経験が豊富な方も、執筆スキルを活かせるでしょう。
また、メディカルライターという職業には医療資格は必須ではないものの、関連資格や知識の有無、執筆経験の有無など、求められる条件は企業によって異なるため、志望企業で活かせる知識・経験はないか探してみると良いでしょう。
人々の命や健康を支える一部になれる
製薬企業・CROで働く場合は、人々の命や健康を支える一部になれることも魅力のひとつです。
臨床試験では、CRC、担当医師、薬剤師などが医療現場で臨床試験を進め、メディカルライターは治験の目的や方法、成績などをまとめた治験総括報告書を提出します。
また、治験によって集めたデータで医薬品の承認申請をする際にも、メディカルライターは必要文書を作成するため、自身が作成した文書をもとに医薬品の承認審査が進むことに魅力を感じることもあります。
メディカルライターの難しさ
メディカルライターは専門性の高いテーマで文書を作成する職業です。
様々な魅力がありますが、業務の特徴から以下のような難しさを感じる人もいるかもしれません。
- 専門知識を身につけなければならない
- 文章力が必要
具体的にどのような難しさがあるのか解説します。
専門知識を身につけなければならない
メディカルライターとして働く場合、大前提として専門知識を身につけなければなりません。
製薬企業やCROに所属するメディカルライターは、治験実施計画書(プロトコル)や総括報告書などの当局への薬事申請を作成し、医療系の制作会社に所属するメディカルライターの場合でも、医療従事者や患者様に向けた資料を作成するため専門性が高い情報を扱うことになります。
特定の分野に関して執筆を行うには、その分野の情報を正しく理解した上で文書を制作する必要があり、知識がないままでは正式な文書を執筆できません。
そのため、メディカルライターは医学・薬学、薬事規制などの専門知識を身につけ、深く理解しておく必要があります。
また、最新の医療情報をテーマに執筆することもあるため、新しい情報・知識を学ぶ姿勢を持つことが求められます。
メディカルライターは常にアンテナを張り、執筆に必要な知識を多く身につけることが重要であるため、学び続ける姿勢を苦手に感じる方は難しいと言える考えるかもしれません。
文章力が必要
文章や論文を書くことに抵抗のある方は難しさを感じるでしょう。
メディカルライターが執筆するのは臨床試験に関する文書、医療従事者向けの文書、患者様向け資料など様々ですが、どの文書を執筆するとしても記載内容に間違いがなく正しいものであること、そして文書全体を論理的な構成にすることが大切です。
データを科学的に理解し、正確に情報を記載しなければ、医薬品の承認申請や医療従事者の教育などあらゆる場面で影響が生じます。
また、文章を作成するときは、読者に合わせて表現方法を変えることなども大切です。
客観的な目線で問題のある文章がないかを判断する力も必要でしょう。
このように、メディカルライターは正確に・科学的に・読者に合わせて執筆しなければならないため、文章力が重要な仕事です。
文章力に自信のない方や文章力の向上に難しさを感じる方は、メディカルライターに難しさを覚えてしまうかもしれません。
メディカルライターに必要な知識・スキル
メディカルライターになるために、必要な資格はありません。
しかし、医学や薬学などの専門的な情報を文書にする仕事であるため、専門知識を備えている人などが求められることが多いです。
また、以下5つのスキルを持っていると、採用時に強みとになることもあります。
- 医学・薬学の基礎知識
- 薬事規制の知識
- 分析力
- 英語力
- コミュニケーション力
では、具体的にどのようなスキルなのかを解説します。
医学・薬学の基礎知識
医療関連の文書を執筆するメディカルライターは、臨床開発や疾患に関する基礎知識を持っていると採用時に強みとなることがあります。
医学・薬学の基礎知識があることで、科学的な根拠に基づいて信頼性が高い文書を専門的な言葉を使って執筆できるなどのメリットがあります。
特に一般向け以外の専門家や専門機関に提出する文書の場合は、医学・薬学の基礎知識に基づいて執筆することが最低条件です。
薬事規制の知識
薬事規制の知識はメディカルライターに必要な知識です。
薬事規制の知識とは、
- 医薬品・医療機器の品質・安全性・有効性確保のためのルール
- 薬機法に違反する言葉・表現
などのことです。
製薬企業やCROで医薬品・医療機器の承認申請に関する文書作成を行う際には、薬事規制を理解しこれに沿った様々な資料を作成します。そのため、専門機関へ提出する文書を制作する上では薬事規制の理解は必ず求められます。
また、例えば一般向けの制作物に関して法律に関する知識の不足により法律に違反するものを制作した場合、虚偽・誇大広告物として措置命令やペナルティが課されることもあり、信頼を損なうことや企業のイメージダウンにつながります。
分析力
科学的なデータや様々な情報を分析して理解した上で文書を作成するため、分析力も活かすことができます。
複数のデータを取り扱って執筆することもあるため、「どこがポイントなのか」「AのデータはBのデータにどうつながっているのか」などを分析する力が大切です。
データを分析し正しく把握が出来ない場合内容に誤りのある文書を作成してしまう恐れもあるため、提供されたデータを細部まで確認して分析する力が活かせるのです。
英語力
英語力も活かすことができるスキルのひとつです。
執筆をする際には、日本語のデータや論文・出版物だけでなく、国外のデータを活用する場合もあります。
英語で書かれた書類などを読み取れなければ、業務を進められないこともあるかもしれません。
また、担当する案件によっては英語で執筆したり翻訳したりしなければならないこともあるでしょう。
医療業界においてもグローバル化は進んでおり、国外の情報をキャッチアップすることや国外のクライアントとの関係構築のためにも、英語力は大切だといえます。
コミュニケーション力
コミュニケーション力も、メディカルライターに活かすことができるスキルです。
文書の執筆自体は1人で行う仕事ですが、クライアント、他のライター、校正者などとやり取りをしながら業務を進めるため、コミュニケーションを取る場面があります。
執筆物の作成を進める際はもちろん、密な情報共有を行うことで円滑な業務進行につながるでしょう。
メディカルライターに向いている人
医療分野にかかわり医薬品・医療機器の承認や医療従事者・患者様向けの資料・コンテンツ作成ができるメディカルライターに、魅力を感じている方は多いのではないでしょうか。
しかし、中には自分に適正があるのか不安に感じている方もいるでしょう。
本章では、メディカルライターに向いている人の特徴を4つご紹介します。
- 学習意欲がある
- 1人で仕事をすることが好き
- 進捗管理ができる
1つずつ解説します。
学習意欲がある
メディカルライターに向いている人の特徴として、学習意欲があることがあげられます。
メディカルライターは常に最新の情報を取り入れ専門知識を身につける必要があるため、すでに医学や薬学、薬機法などの知識があったとしても、常にそれらを最新の情報へとアップデートしなければなりません。
加えて、英語力があると海外のデータを分析したり海外の方とコミュニケーションをとったりなど、業務範囲が広がることに繋がるため、語学を学ぶ姿勢も大切です。
そのため、「知識をアップデートすることが好き」「勉強が苦手ではない」という方はメディカルライターに向いているといえます。
1人で仕事をすることが好き
1人で仕事をすることが好きな方も、メディカルライターに向いている可能性が高いです。
データ分析や執筆業務は、「どのように伝えれば良いか」を考えながら、基本的に1人でデスクワークで進めることになります。
そのため、営業職のように商談のために外出がしたい・人と多く話す仕事がしたい方など、デスクで1つのことに集中し続けるような仕事が苦手な人は向いていないかもしれません。
一方で、1つの文書を完成させるために思考を巡らせて形にすることが好きな場合メディカルライティングに楽しさを見出せるでしょう。
進捗管理ができる
依頼される文書には納期があるため、しっかりと進捗管理ができる方もメディカルライターに向いているといえます。
依頼される文書には納期があるため、医薬品の承認申請の締め切り、営業担当者が企業を訪問する日などを見越して設定されている納期に遅れると、クライアントや自社に迷惑をかけてしまうでしょう。
そのため、自分のタスクや進捗を管理し、納期までに余裕をもって完成させるスケジュールを立てる力がある方はメディカルライターに向いているといえます。
未経験からメディカルライターになる方法
メディカルライターの経験がない場合でも転職をすることはできるのでしょうか。
本章では、未経験の場合・医療業界での従事経験がある場合の2つに分けて解説します。
業界未経験の場合
業界未経験であってもメディカルライターに就職できる可能性はありますがハードルは非常に高いです。
中には未経験でも募集をしている企業もありますが、未経験のうちからプロジェクトに参加して知識やスキルを身につけて業務を習得し、メディカルライターとして今後成長していくことが期待されるでしょう。
未経験で応募ができる求人の場合でも、医療関連の知識・経験のある人が条件になっていることが多いため、学生時代に医学・薬学系を専攻していた方などが有利な条件となっていることが多いです
未経験からメディカルライターへの転職は非常にハードルが高いと考えておきましょう。
医療業界の従事経験がある場合
医療業界における業務経験がある場合、メディカルライターの求人に応募できる可能性が高いです。
「医療分野の知識がある方」「薬剤師経験のある方」などが条件にされている企業もあるため、医療業界で働いた経験のある方は優遇されることもあります。
求人を探すときは、自身が持つ資格や経験に当てはまる条件の記載がないかチェックするようにしましょう。条件に合った業務経験があると、採用時に強みになることもあります。
医療分野に役立つ文書を執筆したい方はメディカルライティングがおすすめ
メディカルライターは、医療に関連した文書を作成する職種であり、製薬企業やCROにおいては医薬品の承認や医療従事者への説明資料、患者様への説明などに使われる専門的な文書を作成します。
医療分野に特化した専門的なライターであるため、これまでの知識や経験を活かして就職したいという方もいるのではないでしょうか。
メディカルライターを目指す場合は、自分の適性や知識、スキルをもとに転職を検討してみると良いでしょう。