インテリムの医学顧問であられる浦部晶夫先生のインタビュー記事をお届けします。
浦部先生が医師になられた1970年代から現在までの血液疾患に対する治療の変遷から、新規薬剤の開発に取り組むCROへのアドバイスに至るまで、多岐にわたりインタビューいたしました。
浦部先生が医師を志されたのは、どのような理由からだったのでしょうか
私の家は代々医者をしていまして、5人いた父親のきょうだいのうち、男は医者になり、女は医者の家に嫁いだということで、親戚のほとんどが医者をしていた関係上、特に大きな理由もなく医者の道を選んだというのが偽らざるところです。
また、当時は自分と同じような家庭環境から医学部に進んだ人が多く、東大の同級生のおよそ半分は医者の息子でした。
先生が東京大学の第3内科に入局されてから、血液を志されたのはどのような理由からでしょうか。
1973年に東京大学医学部を卒業し、研修医として最初に回った科が第3内科で、その3内で白血病の患者さんを数多く受け持ちました。
受け持った白血病の患者さんの治療を通じて血液学がとても面白いと思うようになり、血液を専門とする3内の第6研究室に入りました。
また、ちょうどその当時、海外を始め、日本においても、造血幹細胞というものの存在が研究によって分かってきた頃で、造血幹細胞に関する研究が世界的に始まりました。そういった背景からも、血液の研究に興味を惹かれました。
先生が血液を志された1970年代の日本では、白血病は世間的にどのような病気であるとイメージされていたのでしょうか。
白血病の治療に化学療法が導入され始めた頃でしたが、白血病は退院と入院を繰り返しながら、お亡くなりになる患者さんがほとんどで、治らない病気であるというイメージの病気でした。
ただ、そのような状況でも化学療法により長期に寛解を継続する患者さんもいらして、私の患者さんでその当時から治療を受けていた方が、40年近く経った今でも私の外来に通院されている方がいます。
当時、白血病に対する薬剤はどのような薬剤が使われていたのですか。
急性白血病にはアドリアマイシン、ダウノマイシン、ビンクリスチンなど基本的には現在メインで使われている薬剤と大きく変わらないと思います。
昔に比べて現在の治療成績が良くなっている理由は、白血病に対する治療戦略として、造血幹細胞移植が加わったからではないでしょうか。私が研修医になった1970年代当時は、移植による治療が一部の施設で始められた頃で、まだまだ一般的な治療ではありませんでした。
浦部先生が赤血球に関する疾患や再生不良性貧血をライフワークとされたのはどのような理由からでしょうか。
東大3内の第6研究室に入った際、同じ研究室におられた千葉省三先生が再生不良性貧血の患者さんの尿を集めて、エリスロポエチンの純化精製の研究をされていました。
私は千葉先生と一緒に研究をすることとなり、自然と赤血球関係の研究を始めたことがきっかけとなりました。
そして、私がアメリカ留学を終え帰国したのちしばらくして、自治医大から高久史麿先生(血液)が東大第3内科の教授として戻られました。
その高久先生から、再生不良性貧血の治療や重症度のガイドラインを作る仕事を仰せ司り、再生不良性貧血に携わることになった次第です。
その後、関東逓信病院(現NTT東日本関東病院)に移り、血液内科医を立ち上げると、全国各地から紹介が増えてきて、再生不良性貧血の患者さんが多く集まるようになりました。
浦部先生が入局された時代から約40年の時間が経過していますが、血液疾患に対する治療という観点から、最も大きく変わったと感じられていることはどのようなことでしょうか。
ひとつ挙げるとすれば、先ほども申しましたが、造血幹細胞移植という治療法が、スタンダードな治療法として確立したということですね。
ふたつ目は分子標的薬という新しい薬剤が登場したこと。腫瘍を強く叩く従来の殺細胞性の化学療法とは異なり、現在は腫瘍の性質を明らかにして治療法を選択するという方向に変わってきていると思います。
浦部先生のご経験から最近の血液疾患の治療に対してどのように感じられていますか。
昔から今に至るまでアメリカ追随の姿勢というものが変わっていないなということでしょうか、さらに言うと最近はその傾向が余計強くなっている気がします。
アメリカ血液学会(ASH)というものが世界血液学会のような位置づけになってしまい、今や世界中の血液内科の医師がASHに参加するようになっています。
そのASHで発表された内容に日本だけでなく、世界中の造血器治療が影響を受ける、という傾向は非常に強いように思います。
現在、血液疾患に対し多くの薬剤や治療法の開発が進んでいる中、特に注目されているものがございましたらご紹介いただけますでしょうか。また、この先5~10年の間に治療法や治療成績が大きく変わりそうな血液疾患について、浦部先生のご見解をお聞かせいただけますでしょうか。
今後の話しをする前に、以前から比べ大きく変わったものとして、慢性骨髄性白血病に対するイマチニブ(グリベック)の登場や、 急性前骨髄性白血病に対するATRAによる分化誘導療法など、治療成績を大きく好転させた変換があります。
今後の治療法として多くの注目を集めているのは、悪性リンパ腫に対するCAR-T療法であると思います。
インテリムは創業以来、13年にわたりCROとして医薬品業界で従事している企業ですが、浦部先生から見られて製薬関連企業(製薬会社・CROなど)に対して望むことや、物申されたいと思われることなどがございましたらお聞かせいただけますでしょうか。
製薬会社は上に立つ少数のトップの意見で会社が動いていくことが多いようで、そのトップの判断が良い場合とそうでない場合があるように思います。
企業の上に立つ人達が、グローバルや日本の状況をよく見て判断が出来ているのかどうか、よく分からないことがありますね。
近年、製薬会社は合併や吸収される会社が多いですが、そんな中でも合併せずに頑張っている会社がありますね。
私はそういう会社は社風としてどこか芯が通ったところがあるのだと思うし、決して大きくないけど会社として個性が感じられるところが良いと思います。
CROは全般によく頑張っている会社が多いと思いますよ。
病院にいるとモニターと呼ばれている方が、データの漏れがないようにCRCの方とディスカッションしている姿をよく見かけます。そのように非常に一生懸命に業務にあたっておられる姿に好感が持てますね。
モニターさん達が責任を持って仕事をされているのが伝わってきますし、真面目に取り組む姿勢の人には向いている仕事だと思います。
オンコロジーの臨床試験に携わっているCRA(モニター)に対するご意見やご要望、また期待されていることがございましたら、お聞かせいただけますでしょうか。
治験などで治療中に発現した有害事象がその薬剤に因るものか、そうでないかを判断するために、先入観なく記載してくれると思いがけない副作用が見つかることあります。
そのためには薬剤の特性などをしっかり勉強されることを期待しています。
浦部晶夫(うらべあきお)先生 ご略歴はこちらでご確認いただけます: